昨年10月、日本中に甚大な被害をもたらした台風19号。
浸水した新幹線車両の映像は、いまだ記憶に新しく
あのとき、全国に大きなショックを与えたのではないだろうか。
当館が懇意にしているりんご農家は、あの真っただ中にいた。
電話もつながらず、向かっても途中で通行止めになっており
無事を確かめられたのは、一週間も経ってからだった。
子供たちが小さい時に登っていたりんご畑は泥にまみれ
大きな冷蔵庫が入っていた倉庫は、跡形もなかった。
自宅に伺うと、天井まで水の跡があった。
言葉もなく、あふれる涙をぬぐうこともできず
おばあちゃんの震える身体を、抱きしめるしかなかった。
あれから、一年、所用で訪れていた松本で
成田園、と表示された着信に、飛びつくように出た。
「紅玉ができました」と、いつもと変わらない明るい声に
行きます、今行きます、と答え
その足で、シャチョーと二人、暮れゆく高速を
どんな光景が待っているのか、
誰がお店に出ているのか、
不安を押し隠しながら走った。
国道に、変わらぬ成田園の看板が見えた。
車を降り、笑顔いっぱいのおばあちゃんに連れられて行った畑で
夕暮れの中、
林檎が笑ってた。
色んな事が起こり、心も身体も傷つくこともあるだろう。
それでも、こうして月日が林檎を育ててくれるように
私たちを癒してくれる”時の魔法”を、信じたい。
今日も、明日も、時は刻み続けていくから。
花生、7歳、
成田園にて。