遠くから聞こえていた笛の音が近づいてくる。
それぞれの宿の前に、近迎えが立ち、
赤倉の急な坂道を、神輿が上がってくる。
各宿ごとに神輿をもんで、今年の無事豊作を願う一行は
約3時間かけて、町内を巡る。
ウチの門からの長いエントランスが
このときばかりは申し訳ない。
前ふりの獅子が舞い、
神輿の熱気がやって来る。
汗と気合いが、飛沫のように飛び、
ホースからの冷たい水を受け、足元から水蒸気が上がる。
日常や、個人は、ここには無く。
赤倉の男たちにとっての夏が、ここにある。
一瞬、心を占めるのは
この光を愛して、この地を愛して
心ならずも早逝してしまった人の笑顔。
ダイジョウブ、
ワヤシハココニイルヨ。
光の中に、足を踏み出す。