花への思い入れは、あまりないほうだと思う。
どちらかというと、葉の造詣を好み、
何かのモチーフにも、季節の楽しげな葉を使うが
ただひとつ、リラの花へは特別な思いがある。
松本でフレンチレストランを営む大叔父が
心から愛した花である。
ワイン・フランス料理・絵画・音楽、この世で彼が美しいと認めたものを
こよなく慈しみ、その楽しみや味わいをわたしに教えてくれた。
赤倉もそのお気に入りのひとつで、
「リラの花を植えなよ」
と、来るつど庭を眺めては言っていた。
気候や積雪で育てるのはむつかしい、と、言われたとおり
何度も折れ、痛めつけられた枝から、11もの蕾の房がついた。
ライラック、と呼ばずに“リラの花”と呼んでいた彼の
照れくさそうな笑顔が、花と一緒に風に揺れた。